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│メルマCiCオリジナルエッセイ
│〜彼女たちの恋愛履歴〜 story.028
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「飛んでるか?」
たまちゃんは、大学時代、大阪にいた頃のサークル仲間である。
当時、軽音楽サークルに入っていた私は、ひとつ年下のギター弾きの彼とバンドを組んでいた。広島生まれの彼は、口が悪く、振るまいも広島男児!という感じ。強面のずんぐり体型で、どこででも平気で寝るし、人前でオナラはする。年下なのに私をお前呼ばわりし、会うたびに「また顔が丸くなったの〜」とニタニタと笑う、可愛くないやつだった。私達は、いつも低レベルな言い合いばかりしていた。男とか女とかといった気遣いをしない分、本音も弱音も話せた。酔ってふざけて顔に水を掛合ったこともあった。
けっして美男とは言えない、闘牛のようなたまちゃんは、なぜかモテた。まるで「ビバリーヒルズ青春白書」のように、サークル内でフォークダンス式に取っかえ引っかえ彼女を作った。可愛い後輩たちが、なぜ彼に惹かれていくのか謎だった。
一度だけ、たまちゃんとケンカしたことがある。皆で飲みながら進路について喋っていた時のことだ。「大学卒業したら就職せずに、海外を放浪する」。たまちゃんはそう宣言した。「いろんな物を見て、本当にしたい仕事を見つけたい」と。
地元での就職が決まっていた私は、そんな自由な彼がとても羨ましく、「何も考えずに旅に出れる人はいいよね」と、いつものノリで言ってしまった。
「お前、俺が何も考えてないって言うんか。うるさいんじゃ」。たまちゃんは、顔を真っ赤にして怒った。しーんと凍りつく空気のなか、私は黙りこむしかなかった。
以来、たまちゃんと私の間には距離ができた。仲直りしてからも、どこか気まずさは消えなかった。昔のようにじゃれあったりも、周りがハラハラするような言い合いをすることもなくなった。
卒業して数年、サークルの集まりがあり、彼と久しぶりに会うことになった。私がコピーライターの仕事をしているという話になり、たまちゃんが「ほえ〜すごいじゃん、どんな仕事なん?」と聞いてきた。
「いろんな人の気持ちになって、考えて、妄想する仕事だよ。どこまで飛べるかが勝負だよ」と、私は少しエラそうに答えた。「つまり、妄想して、遠くまで飛んで、勘違いする仕事だろ。今まで勘違いで生きてきたお前にはピッタリじゃん。ガハハハ」とたまちゃんは爆笑した。ほんっとコイツ、口悪いな。そして、ニヤケながら「俺のキャッチコピーを考えてよ」と。 「・・・『男道。』とか?」。くだらない会話をしながら、私はうれしくて泣きそうだった。
大阪駅で別れる際に、「コピーライターの仕事、ずっと続けられるかわかんないよ」と私は言った。当時、仕事を辞めたいとばかり思っていた私は、最後の最後で本音を言ってしまったのだ。
たまちゃんは急に真顔になり、「なんでや。辞めんなよ。もったいないけえ。お前にピッタリじゃけえ」と言った。そして、売店で豚シュウマイを買ってくれた。私は帰りのサンダーバードの中で、仕事のこと、当時つきあっていた彼氏のこと、人生のいろんな事を思いながら、熱々の豚シュウマイをほおばった。うれしいような泣きたいような、不思議な気持ちがこみ上げてきて、涙がこぼれた。
そんな彼からこの前、「飛んでるか?」というメールが来ていた。
今でもときどき、大阪駅でのたまちゃんの言葉を思い出す。私はうれしかったのだ。素直なやさしい言葉なんて、めったに言わない彼が、「向いてる」と言ってくれたことが。何の根拠もない彼の言葉を、私はなぜかまっすぐに信じることができた。
けっして恋とか色っぽい関係じゃない。彼に恋人がいても1%も何も思わない。友達のような、弟のような、従兄弟のような。その人の前では絶対に嘘がつけなくなる、ふしぎな人。
「ちゃんと飛ぶからね」。たまに思い出しては、そっと心の中で彼に誓う。だいじな、だいじな人なのだった。
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│著者:Sawako Matsuoka(コピーライター)
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