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│メルマCiCオリジナルエッセイ
│『なんくるの普通の日々』Vol.034
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「おとうさんの絵本。」
子どもの頃に読んでいた絵本の中でも、特に好きだった挿し絵は、大人になってもずっと忘れないもの。何回も飽きずにページをめくっては眺めていたあの頃の、しあわせな記憶。いまから50年ほど前に、絵本や児童画で子どもたちのためにたくさんの素敵な絵を描いた、茂田井武(もたいたけし)という児童画家がいた。
茂田井は1908年生まれ。昨年でちょうど生誕100年。日本橋の有名な旅館の次男として生まれ、そこを定宿としていた画家たちの絵に幼い頃から親しんだ。大正モダンの自由な風のなかで、彼も絵を描くことが好きな少年に育つ。でも、美術学校の受験に失敗し、21歳の時に放浪の旅へ。シベリア鉄道で乗客の似顔絵を描いて稼ぎながらパリにたどり着く。日本に帰国するまでの3年間のあいだに、パリで出逢ったいろんな人や風景を、すごくお洒落に描いている。
絵というよりも、イラストに近い、現代の雑誌にあってもおかしくないようなスケッチ。とても80年前の作品とは思えない、うまく力の抜けた感じが素敵。その頃の日本人のお洒落さは、きっと想像以上だったんだと思う。戦争ですべて破壊されてしまったのが、やはり残念だ。
帰国後も、30近い仕事を転々として放浪したが、34歳で結婚した頃から本格的に児童画の仕事を始める。彼が画家として活躍したのは戦中から戦後の約10年間。日本がもっとも貧しかった頃だ。物のない苦しい時代に、子どもの頃のしあわせな記憶と夢を創作の泉にして、繊細で素朴な、愛情に満ちた作品を世に送りだした。
1956年に亡くなった茂田井。直前に描いていた絵は、驚くほど生き生きとしている。衰弱していたことが信じられないくらい、楽しさと喜びがいっぱいで、命の輝き、想いの強さが伝わってくる。「キンダーブック」という絵雑誌に掲載された「こんやはよみや」では、秋のお祭りに集まるたくさんの動物たちが、にぎやかに丁寧に描かれている。
彼は自身の絵を納得いくまで追求した「おとうさんの絵本」を遺したいと願ったが叶わなかった。でも、命の限り描き続けた、温かく大きな想いは、いま私たちにちゃんと届いている。
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│著者:なんくる(コピーライター)
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